鉄スクラップを主原料に、脱炭素型の鉄鋼製品を生み出し続ける東京製鐵。資源リサイクルの最前線に立つわたしたちこそ、気候変動対策に真剣に取り組まなければならないと考えます。
日頃より当社事業への格別のご理解とご協力を賜り、誠にありがとうございます。
東京製鐵は、1934年の創業以来、貴重な資源である鉄スクラップを、多様な鉄鋼製品へとリサイクルし、わが国の「持続可能なものづくり」を支えてまいりました。鉄はリサイクルしても品質がほとんど低下せず、何度でも様々な製品へと生まれ変わることができる数少ない素材です。さらに、リサイクルによる鉄づくりは、鋼材製造時のCO2発生量を抑制する極めて有効な方法だといわれています。
日本には約14億トンの鉄鋼蓄積があります。資源の少ないわが国において、国民一人あたりにすると車十数台分と言われるこの貴重な資源を、循環型社会と脱炭素社会の実現に向け、最大限活用させることが当社の使命です。当社は、リサイクル鋼材の供給拡大を目指し、鋼材需要の中心をなす建設分野のお客様に、1969年から電炉H形鋼を提供し、その後、建築物の構造変化にあわせて、大型サイズ化を積極的に進めてきました。また、1991年、わが国初となる電炉ホットコイルに参入し、その後、酸洗コイル、溶融亜鉛めっきコイルと、薄板の分野でも顧客層を広げていったことに加えて、2007年からは厚板の生産も開始し、鋼材需要の中心である鋼板製品の品揃え拡充に積極的に取り組んでまいりました。
残念なことに、1990年代後半以降、わが国の貴重な資源である鉄スクラップが、国内で消費しきれず、国外へと輸出される状況が続いています。当社は、品種や製品サイズの拡大などを通じて、従前から困難とされてきた、解体された建物や廃自動車から発生する最も標準的な鉄スクラップを、より付加価値の高い鉄鋼製品へ転換させることこそ、真の資源循環につながるとの信念のもと、世界的にも注目される独自の技術を磨いてまいりました。
環境面における電炉の有用性への注目が高まるなか、当社は、2017年に長期環境ビジョン「Tokyo Steel EcoVision 2050」を発表し、鉄スクラップの循環拡大が、鉄鋼業の脱炭素化に直結するという、電炉鋼材の特性を活かした、新たな挑戦を始めました。
そして今、この挑戦に共鳴いただいた、当社を取り巻く様々なステークホルダーの皆様との「連帯」が、具体的な形となっていくことを実感しております。資源循環と脱炭素という社会全体の課題について、東京製鐵こそが解決策の一つとなりうる、ということをお示ししながら、当社の持てる力を全力で発揮していきたいと考えています。
ともに、手を携えていただけるパートナーを、心よりお待ちしております。
東京製鐵株式会社 代表取締役
環境問題のうち、近年特に深刻化が進む課題として、気候変動問題および資源・廃棄物問題が挙げられます。
気候変動問題については、2016年11月に「パリ協定」が発効され、産業革命前からの気温上昇幅を2℃未満に抑えていくこと、そのためには、今世紀後半に温室効果ガスの排出を実質ゼロにしていくことが決まりました。その後、気候変動問題は想定以上に深刻化が進んでいることから、2018年10月には気候変動に関する政府間パネル(IPCC)により、「1.5℃特別報告書」が発表され、「2℃未満」では不十分であり、産業革命前からの気温上昇幅を1.5℃未満に抑える必要があること、そのためには、2030年には2010年と比較して温室効果ガスを45%削減する必要があること、および2050年には実質排出をゼロにする必要があることが提唱されました。温室効果ガスの大幅な削減は地球規模で早急に取り組まなければならない深刻な課題となっています。また、わが国では、2020年10月に「2050年カーボンニュートラル」を目指すことが宣言され、2021年4月には、2030年度の新たな温室効果ガス排出削減目標として、2013年度比で46%削減することが掲げられ、さらに50%の高みに向けて挑戦を続けるとの新たな方針が示されました。わが国が2050年に目指す社会の実現には、産業構造や経済社会の変革が必要であり、企業による気候変動問題への積極的な対応に大きな期待が寄せられています。
一方、天然資源の大量消費やプラスチックを始めとした廃棄物の排出増大といった資源・廃棄物問題も深刻化しており、2050年に全世界の人口が90億人を超えると予想される中で、現状の消費ペースの持続は不可能とされています。限りある資源を有効に活用し、循環型社会を構築していくことが、持続可能な成長を維持していく上で極めて重要になっています。こうした中で社会的課題の解決に向け、東京製鐵は鉄スクラップのリサイクルを通じ、高品質の製品をより少ない環境負荷と低コストで世の中に送り出すことで、「循環型社会」と「脱炭素社会」の実現に貢献していきます。
サステナビリティ課題の社会的潮流
脱炭素社会の実現に向けて
安価でありながら、高い強度を持ち、大量に製造できる金属として、人類の生活に不可欠な“鉄”。数々の技術革新を経て、様々な産業分野で使用され、現代文明を根幹から支えています。
“鉄”は、製造時のコストや生産性の面で優れていることに加え、あらゆる素材の中で最もリサイクル性に優れた材料の一つです。天然資源の枯渇問題が深刻になる中、循環型社会の実現に向けて、一層の活用が社会から求められています。
しかし、国内鉄鋼メーカーから排出されるCO2は、わが国全体のCO2排出量(年間約10.4億t)の12.5%(年間約1.3億t)に達しています。
産業部門別で最も排出量が多い鉄鋼業は、その削減に向け、どの産業よりも大きな責務を負うべき、と我々は考えます。
産業別CO2排出量
※ 環境省HP 2020年度(令和2年度) 温室効果ガス 排出量(確報値)
脱炭素社会の実現に向けて
鉄鋼部門のCO2排出量のうち、90%以上は高炉メーカーから排出されています。
生産量1トン当たりのCO2排出量で比較すると、電炉メーカーの製造時におけるCO2排出量は、高炉メーカーの約5分の1以下に過ぎない、ということがわかっています。
高炉法では、鉄鉱石の中から鉄を取り出す際に、酸化鉄から石炭(コークス)を用いて酸素を奪う「還元」が必要となり、その際に大量のCO2を排出します。一方で、電炉法では鉄スクラップを電気で溶解することで鉄を製造します。この電気を発電所で発電する際に生じるCO2が電炉法でのCO2排出量の大部分を占めます。現時点の電源構成においても、電炉法でのCO2排出量は高炉法に比し、圧倒的に少なくなっております。
再生可能エネルギー等の非化石エネルギー起源電力の普及により電力の脱炭素化が進展していくと、電炉法によるCO2排出量は更に低減していきます。
さらに、原料の輸送プロセスで発生するCO2についても、地元の鉄スクラップを地元でリサイクルする「地産地消」型の電炉メーカーの方が、主原料の大部分を海外から輸入する高炉メーカーより、断然少なくなります。
日本の鉄鋼部門のCO2排出量と鉄リサイクルの流れ
※1 出所:西野誠「一貫製鉄プロセスにおける二酸化炭素排出理論値に関する調査報告、ふぇらむVol.3(1998)No.1」
※2 出所:経済産業省・国土交通省「物流分野のCO2排出量に関する算定方法ガイドライン、p6」
※3 出所:財団法人シップアンドオーシャン財団「2000年船舶からの温室効果ガスの排出削減に関する調査研究報告書、p92」鉄鉱石中の鉄は60%と仮定
電炉・高炉の粗鋼1tあたりのCO2排出量の比較
調整後温室効果ガス排出量(tCO2t) | 粗鋼生産量(t) | tCO2t/生産t | |
---|---|---|---|
電炉10社計 (粗鋼生産量上位10社) |
4.585.770 | 11.511.393 | 0.39 |
高炉4社計 (当時) |
157.667.655 | 79.009.571 | 1.99 |
1/5以下
調整後温室効果ガス排出量(CO2t) | |
---|---|
電炉10社計 (粗鋼生産量上位10社) |
4.585.770 |
高炉4社計 | 157.667.655 |
粗鋼生産量(t) | |
---|---|
電炉10社計 (粗鋼生産量上位10社) |
11.511.393 |
高炉4社計 | 79.009.571 |
CO2t/t | |
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電炉10社計 (粗鋼生産量上位10社) |
0.39 |
高炉4社計 | 1.99 |
1/5以下
出所:環境省「地球温暖化対策推進法に基づく温室効果ガス排出量算定・報告・公表制度による平成30(2018)年度温室効果ガス排出量の集計結果」等より作成
循環型社会の実現に向けて
わが国の2021年末時点での鉄鋼蓄積量は中国、EU、アメリカ、ロシアに次ぐ約14億トンと推定されています。鉄鋼蓄積量とは鉄鋼製品として使用され、ビルや橋梁、自動車、家電製品等、何らかの形で国内に蓄積された鉄資源の量で、将来的な老廃スクラップの発生源になります。
それらは、将来的にスクラップとして回収され、電炉メーカーによって鉄鋼製品として生まれ変わります。
国内鋼材需要の数十年分に相当する蓄積量を誇る、わが国の貴重な資源である鉄スクラップをリサイクルしていくことは、天然資源の消費を抑制し、持続可能な成長を続けていくうえで大変重要になっています。
しかしながら1990年代に入り鉄スクラップの輸出が輸入を上回ると、わが国における鉄鋼蓄積量の増加幅は低水準となり、2021年度は700万トンを超える量の貴重な資源の海外流出が続いています。
日本の鉄鋼蓄積量の推移
一般社団法人日本鉄源協会のホームページを基に作成
わが国の電炉生産比率は、わずか20%台にとどまっています。これは約70%のアメリカや約40%のEUと比較しても突出して低い数値です。
国内に30社ほど電炉メーカーが存在し、世界有数の鉄鋼蓄積量があるにも関わらず、こうした状況となっている背景の一つには、多くの電炉メーカーの製造品種が丸棒等の「電炉品種」と言われる限定された市場にとどまってきたことにあります。
鉄鋼生産における世界各国の電炉生産比率(2022年実績)
出所:World Steel Association「2022 World Steel in Figures」を基に作成
「わが国の電炉の存在感を高め、脱炭素社会を実現するとともに、循環型社会を定着させたい。」
その実現のためには、従前電炉メーカーが製造してこなかったH形鋼や鋼板といった「高炉品種」に電炉メーカーとして果敢にチャレンジし、電気炉製品を広く社会に供給してきた東京製鐵こそ、先頭に立たなければならない、と考えています。
品種 | 2021年度国内生産量(万トン) | 2021年度電炉シェア | 東京製鐵の進出時期 |
---|---|---|---|
丸棒 | 776 | 100% | 1953年 |
H形鋼 | 362 | 64.7% | 1969年 |
厚中板 | 938 | 14% | 1984年 |
熱延コイル | 3.764 | 4.6% | 1991年 |
品種 | 丸棒 |
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2021年度国内生産量(万トン) | 776 |
2021年度電炉シェア | 100% |
東京製鐵の進出時期 | 1953年 |
品種 | H形鋼 |
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2021年度国内生産量(万トン) | 362 |
2021年度電炉シェア | 64.7% |
東京製鐵の進出時期 | 1969年 |
品種 | 厚中板 |
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2021年度国内生産量(万トン) | 938 |
2021年度電炉シェア | 14% |
東京製鐵の進出時期 | 1984年 |
品種 | 熱延コイル |
---|---|
2021年度国内生産量(万トン) | 3.764 |
2021年度電炉シェア | 4.6% |
東京製鐵の進出時期 | 1991年 |
出所:鉄鋼新聞調査を基に作成